皮膚病雑記帳NO.2


 

●病名に水のつく皮膚病

 病名に水のつく皮膚病を最近診ることが多いので、まとめてみました。

 1.水虫
 今年は平年より季節の到来が遅いようでもうすぐ6月というのになかなか暑くなりません。そのうち暑くなると思いますが、夏になると多くなってくるのが水虫です。最近は下を向いて、患者さんの足を見て診察することが増えてきました。冬の間はおさまっていても、湿気が増えてくると症状が毎年出てくる患者さんが多いようです。数年前からテレビや雑誌で爪の水虫のコマーシャルをしていますが、内服薬で爪はきれいになりますが、また3シーズン目くらいになると再発してきます。環境が変わらない限りいつまでたっても治りません。

 2.水痘(水ぼうそう)
 初期は虫刺されや水いぼに似ていて、診断に困ることもありますが、2〜3日もすると特徴的な皮疹を呈してきます。成人が罹患すると重症化することがあり注意が必要です。

 3.水いぼ(伝染性軟属腫)
 プールが始まる頃になると急に増えてきます。主に幼稚園や小学生の子供に多い病気ですが、まれに免疫力の低下した大人にも感染します。取るか取らないかがいつも議論の対象になりますが、皮膚科は取る、小児科は取らない傾向のようです。日本医師会は取る見解ですが。私も他の病気(とびひ、湿疹など)を引き起こすことがあることを理由に積極的に取っています。
 
 4.水疱性類天疱瘡
 自己免疫を機序として、寝たきりのお年寄りにときどき発症する皮膚病です。結構大きな水疱が腋や太もも、腰などに出現します。ステロイドの投与が効果的ですが、やめると再燃することが多いようです。悪性腫瘍や他の自己免疫疾患を合併することがあります。

 だらだらと書いてしまいました。役に立たねば水に流してください。

2006.5.31記載

●アレルギー性肉芽腫性血管炎

 こんな病名を聞いたことがある人はほとんどいないでしょうが、まれに出くわすことがあります。

 血管炎が原因となる疾患の1つですが、喘息、好酸球(白血球の1種)増多症、結節、紅斑をはじめとする多彩な皮膚症状などを伴う疾患です。組織学的には血管炎の他に血管に関係のない肉芽腫反応を生じます。Churg-Strauss症候群とも呼ばれています。
 
 皮膚科外来に喘息の既往歴、好酸球増多の検査所見があり、結節、紅斑をはじめとする多彩な皮膚症状をもった患者さんが来られたら、この病気を疑ってみることが必要です。診断確定には抗体検査が必要になります。治療はステロイドの投与が基本になります。
 
 喘息、好酸球増多症などは内科的疾患などで診断、治療にさいしては、内科の医師との連携が必要です。私の医院に肉芽腫で通っていた患者さんが、喘息、好酸球増多症で近くの内科医院に通っていましたが、この病気を疑って教えてくれたのは親しくしているそこの先生でした。

 日常診療をしているとありふれた病気が多く、それをきっちり、早く治すのが臨床医の役目ですが、このような病気に出くわすと珍しい病気を多く知っていることの大切さを痛感します。

2006.4.30記載


●疥癬(かいせん)騒動
 
 疥癬(かいせん)は皮膚に寄生するヒゼンダニによって生ずる皮膚病です。痒みが強く、夜も眠れないことがあります。栄養不良、非衛生生活者に多発し、第二次世界大戦直後は皮膚疾患の三分の一を超えるほど大流行しました。現代ではかなり発生数は減っていますが、老人施設などの介護を要する高齢者の増加、湿疹と診断されてステロイド外用薬を誤用するなどにより近年増加しています。私個人の印象としては、教科書的な典型的な症状のものは減って、体の一部にしか症状がないような非典型例が増加し、診断が難しくなっているように思います。

 ところで最近、老人施設で集団発生したケースを経験しました。そこに通っている一人の痒みの強い発疹の患者さんを湿疹として治療をしていたのですが、なかなか良くなりませんでした。時々疥癬を疑ってチェックをしていたのですが、疥癬の成虫や虫卵は見つかりませんでした。2ヶ月ほど診ない間に体全体に発疹が拡がってしまい、典型的な疥癬の発疹になっていて成虫や虫卵とも見つかりました。

 さっそく治療を開始しましたが、老人施設を厳重にチェックしてもらったところ他にも4人ほど疥癬の患者さんが見つかりました。幸いにも職員さんには見つかりませんでした。これらの患者さんには施設の出入りを禁止してもらい、皮疹が消えてダニがいなくなったのを確かめてから出入りを許可しました。潜伏期間が1ケ月なので患者さんを発見以来1ケ月は新たな発生がないか警戒しなければなりません。治療は外用剤が基本です。近年有効な内服薬も出現しましたが、副作用、薬価などの点からまだまだ使いにくいのが現状です。

 外用剤で治療しましたが2ケ月近く経ち、一応騒動は落ち着いたようです。

2006.3.31記載

●薬疹情報

 皮膚科に発疹を主訴に来られる患者さんで内科などから薬剤を処方されている方がかなりいます。その中には薬疹が疑われるケースが多くあります。

 10年程前から薬疹情報というテキストを愛用しています。それは福岡の皮膚科開業医の先生が症例を集めて本にしたものです。薬疹にはいろいろなタイプがあり、効能別に分類してあり、この薬はどのタイプの薬疹が出現しやすいかを知ることができます。中には1剤で数ページに及び報告が並んでいるものもあります。引用文献の記載もあり重宝している1冊です。著者の作成の努力には感服します。

 薬疹でよく問題となるのは出現するまでの期間がどのくらいかということがあります。服用してすぐにでることが多いのですが、薬剤によっては数ケ月経ってからでるのがあるので注意が必要です。また本当に薬疹かを判定するには数種類の検査が必要ですが、目の前の患者さんを前にまず治療する必要がありこのテキストを参考にし、可能性があれば内服を変更または中止(その薬を処方している主治医に相談して)することもよくあります。

 薬疹情報というテキストは1989年に第1版が出ました。年々厚さがましてきており2005年の発行のものは500ページほどで、2001年発行のものより100ページ増えていました。それだけ薬疹が増えてきているのは薬の種類がどんどん増えているからでしょうが、これからあまり増えないで欲しいものです。あまり分厚くなって事典みたいになってもちょっと調べるのに困ります。

2006.2.28記載

●3つのレーザー

 当院では開院以来レーザー機器を導入しており、現在3台設置しています。1皮膚科開業医としては多い方だと思います。3台を紹介します。

1.低出力半導体レーザー。小さなエネルギー量で細胞や生体を刺激、活性化させます。疼痛緩和、血行改善、化骨促進、創傷治癒促進などの効果があります。帯状疱疹後神経痛、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、結節性痒疹、しもやけ、肩こり、腰痛などに使用します。10年程前から導入していますが、現在のものは3代目で、初代から比較すると約10倍ほどのパワーがあり効果もアップしました。応用範囲が広いので最も頻繁に使用しています。

2.炭酸ガスレーザー。水に吸収され、組織を蒸散させ、レーザーメスとして使われています。老人性疣贅、老人性色素斑、ほくろ、いぼ、血管拡張性肉芽腫、汗管腫などに使用します。8年程前に導入しましたが、国産のもので、1回炭酸ガスが無くなりボンベを入れ替えましたが、ほとんど故障なく使っています。

3.多機能半導体レーザー。波長が810nmで、真皮まで十分光が届き、血管の再生や、細胞分裂を活発にし、線維芽細胞を刺激して、膠原線維の再生を高めます。小じわや皮膚のたるみ、にきび跡などに有効です。最近では帯状疱疹後神経痛にも照射して、有効例を経験しています。3年前に導入しました。美容皮膚科領域で現在最も注目を集めている機器の1つです。

大病院のように高額の機器の導入は開業医としては無理なのですが、次はどんなレーザーを入れようかと思案しています。

2006.1.31記載


●皮これ存せず、毛はたいずくにか附かん

 漢方を学ぶ人にとってバイブル的な書物に『傷寒論』があります。序文を読んでみると上記の文に出くわしました。ちょっと育毛に関することのようですが、そうではありません。

 序文は傷寒論を学ぶ心得を説いたものですが、当時書いた人(一応、張仲景が著者といわれている)が昔の医師はよく学び、良い医療を施していたが、その時代の人は名声や利欲に心を奪われて、体を粗末にすることを戒めています。『皮これ存せず、毛はたいずくにか附かん』とは外をはなやかに飾って、その内をやつらせていては健康を保って、長命を続けることはできない。これは皮がないのに、毛の附くことを望むようなことであると当時の人を嘆いて言った喩えです。

 また当時の医師は古典を究めずして、口先で知っている限りのことを演説し、それぞれの家伝の方法をうけついで、生涯同じ治療を繰り返し、工夫、発明ということがないと批判的です。

これらは現代医療にもまったく当てはまることです。

 序文の最後では、孔子の言葉に、生まれながらに学ばずしてこれを知っている者は上の部に属するとあるが、これは凡人の企及すべからずところであるが、学んで多聞博識に至るはその次で、努力によって達することのできる境地であると励ましてくれていました。

 2005.12.31記載


●ダーモスコピーまたはビデオマイクロスコープで皮膚を診る

 微細な皮膚病変の観察の際には、拡大して診ることが必要で、当院では30倍から100倍に拡大できるビデオマイクロスコープを使っています。かつてはルーペ(虫眼鏡)を使っていましたが、30倍以上拡大できるビデオスコープは優れています。またもう少し倍率は低いのですが、ハンディタイプの電源の不要なダーモスコピーというのもあり、ポケットに入れておいて診察時にさっと取り出して観察できます。某大学皮膚科では医師全員が携帯しているとのことです。ここ2〜3年で急速にビデオマイクロスコープまたはデルマトスコピーが普及してきました。

 とくに悪性が疑われる病変のチェックに有用です。メラノーマ(悪性黒色腫)では、足底の場合では色素斑部に皮丘部(皮膚のしわの盛り上がった部分)に一致する帯状の色素沈着が診られたり、辺縁部で突然途切れる所見があったりするので診断の補助になります。また基底細胞癌という皮膚癌では灰青褐色調の分葉状のびまん性色素沈着や毛細血管拡張などが認められることが多いようです。

 また非常に小さな水イボ(伝染性軟属腫)や、イボ(尋常性疣贅)の確認に使用したり、取り残していないかチェックするのに使います。その他細かな異物、例えばバラの棘が指に刺さった場合などに、確認するのに役立ちます。患者さんにはビデオ画面で一緒に見てもらいますので、とても説得力があります。

肉眼と顕微鏡の世界の間にダーモスコピーまたはビデオマイクロスコープの画像があるわけですが、倍率がことなると見える世界も変わってきます。日常生活においても少し倍率を変えて物事を眺めてみれば多少人生観も変わるかもしれません。

2005.11.29記載


●科の垣根を越えて拡がる漢方の世界

 続いて漢方の話になってしまいました。漢方薬を処方するにあたっては病名ではなく証を中心に決定するので、皮膚病だけでなく他科の病気が良くなっていくことを経験します。また他科のある疾患に代表的な処方の漢方薬が皮膚疾患に効果があった例などもあります。そういった例をいくつか紹介します。

 1.血の巡りが悪いお血の患者さんがにきびを患っていた場合に駆お血剤を処方すると冷え症や便秘が改善された例
 2.気虚の患者さんでアトピーを患っていた場合に気虚を改善する漢方薬(例えば補中益気湯など)を処方して精神的に逞しくなっていく例
 3.アレルギー性鼻炎のあるアトピー性皮膚炎の患者さんに小青竜湯を処方した所、アトピーも良くなってきた例
 4.胃腸の悪いにきびの患者さんに胃腸の調子を整える漢方薬で改善した例
 5.感冒によく処方される葛根湯が蕁麻疹に効いた例
 6. 打撲して内出血した患者さんに駆お血剤が奏効した例
 7.小児のアトピー性皮膚炎の患者さんに小建中湯を処方し、体力がついて小児科にあまりかからなくなった例
 8.しもやけの患者さんにしもやけに代表的な漢方薬を処方して腰痛が改善した例
 9.足がほてる患者さんに泌尿器系でよく処方される腎虚の漢方薬でほてりが改善した例
 10.精神安定剤的によく処方される柴胡加竜骨牡蛎湯や桂枝加竜骨牡蛎湯が円形脱毛症に奏効する例


 以上とめどもなく列挙しました。忘れているものがまだ他にあると思いますがこの辺りで。


 2005.10.31記載








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